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モノはいつかゴミになるけど

私は持ち物への執着が、あまりない。
これはこれで、悪くないことだと思う。

ただ、これにも込み入った、快・不快感情がまつわっていて、自分にとって大事なものさえ、あえて執着すべからず、という掟を課していたのかもしれない、という気がする。

原家庭で、私はモノに不自由することはなかった。
欲しいと言えば、大概の物は買ってもらえた。
特に小さい子どもの頃は、今にして思えば謎に思うような何やら動物の毛皮の襟巻き(リアルなぬいぐるみと勘違いしていたらしい)だとか、叔母の家で見たフランス人形だとか、果てはエレクトーンまで、普通の親なら即買いするのを躊躇うことがあるのではないかという物まで、言えば比較的すんなり買ってもらえた。

母の父親という人は、不幸に見舞われる前は子煩悩な人だったらしい。そして、警官だったと言うから、取り立てて裕福ではなかったのだが、母の欲しがる物は喜んで買い与えていたようだ。
母は多分、そんな父親と、どこかで同一化していたのだろう。
もちろん、それだけなら特に悪いことはない。
その後母が父親に捨てられることがなければ、そういう点は美質になっていたかもしれない。

だが実際、母は自分の父親に見捨てられてしまい、散々な苦労を強いられた。
よい思い出にさえ、それに縋りつけば縋りつくほど、アンビバレントな思いが生まれて行っただろう。

この父親は、そのまま行方をくらましっぱなしだったのではなく、母が中学を卒業する頃一度戻って来て、何やら母の就職に一役買ったのだという。
そしてまた消息不明になり、次に連絡が来たのは、酔って誰かの車の下で眠り、そのまま轢かれて死んでしまった、という警察からの知らせだったらしい。

今現在の私から言わせてもらえば、なまじ変に一度役に立ちに現れたりせず、消息不明のまま死亡連絡が来た方が、母はちゃんと彼を恨むことができたのではないかと思う。
さもなければ、現れた時、母が相手の胸ぐらを掴んで揺さぶってやるとか、怒鳴りつけてやるとか、できていれば。
母より九歳年下で、父親のことを全く覚えていない母の妹は、彼の話題が出ても「ああ、あのクソジジイね!」と斬り捨てることができている。彼女も自分の長男に対してはやや毒親の気がなかったとは言えないが、それでもうちのように親子関係がこじれることもなかったのは、この辺りの差なのではないかと思う。

母は親戚の家を転々としている時、当然父親に買ってもらった思い出の品々など持って歩くことはできなかった。
なので、子ども時代の喪失と、思い出の品々の喪失は深く結びつけられて、母の内部にトラウマとして残っていた。

このせいで、私の子ども時代を一部、いやほぼ全て、乗っ取りたい衝動に駆られたものらしい。
確かに私に買ってはくれるのだが、それは同時に母のものでもあって、勝手に飽きるとか、増して捨てるなど許されなかった。
買い与えた品ばかりではなく、他にも私の小学校時代の図工の作品やら文集やら通知表などもその対象で、私自身が後にもういらない、処分したいと言っても、「これは私のなんだからッ!」とすごい形相で怒鳴られた。
その声は、小さい子どもの悲鳴に似ていた。

自分を乗っ取られるしんどさ、苦しさは、多分それをされて、更にそのことを自覚するに至った人にしかわからないだろう。

彼女の生々しい心的外傷のせいで、私は何が自分のものであるかもよくわからなかったのかもしれない。
自分の人格についてさえ、どこからどこまでが自分のものなのか、はっきりしなかったように思う。

それでいて、彼女は私自身の独自性や考え方に興味を持った訳ではないから、例えば友だちとの手紙を勝手に読まれるようなことはなかった。
(むしろそこ、つまり人格や感受性が私と別物であるなどとは、思いつきもしなかったフシがある。)

それがプライバシーの尊重とはまた違ったのは、例えば私の部屋のドアを絶対に閉めさせなかったり、私の部屋に彼女の私物を勝手に置いて、それを取りに勝手に入って来たりしたことからも明らかだ。
そういう理由さえなく、ふと気配に気がついてそちらを向くと、無表情の母がボーッと立っていたこともある。

私は今でも、例えば台所にいて、気づかないうちに夫に側に来られて声を掛けられたりすると、文字通り飛び上がるほど驚いてしまう。
物理的にも、心理的にも、人と距離を取るのが本当に難しい。

自分がどうやらACであるらしいとわかった後、私は、当時はまだそういう言葉があったかわからないが、自己流断捨離を次々と決行した。
「思い出の品は絶対に捨ててはいけない」という母の呪縛を、振り切りたかったのだと思う。
それに、長く生きていたいとも思わなかったし、とにかく自分の痕跡をこの世に残したくなかった。

今はそこまで切羽詰まった感覚はない。
そして、時々「発作」を起こして身辺整理をしたせいで捨ててしまった、自分の趣味で集めた小物などを、惜しかったな、と思い出すこともある。

もう、自分で決めていいのに、ね。

by Reimei34 | 2018-10-07 20:41 | 機能不全家族

鬱、ひきこもり、毒になる母などについての 言葉にするのが難しい痛みの記録。


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